浮かぶ首
友人はいわゆる、「見える」人でした。
姿形がハッキリと見えるときもあれば、気配だけを感じるときなどさまざまでしたが、物心ついたときから「見える」のだといいます。
小さい頃、自分に見えているものを兄弟へ必死に伝えようとしました。
しかし、怖がった兄弟は泣き出してしまい、それ以降「見える」ことは隠すようになったのだとか。
そんな友人は、なかなか実家に帰りたがりません。
なぜかというと、実家のとある決まった場所に、いつも同じ顔の「首」が浮いているというのです。
そのとある場所とは、一階の和室。
その首はいつも無表情で、和室の同じ場所に浮いていました。
見えるのは家族の中ではもちろん友人だけで、他の家族には話していないそうです。
首はただ無表情でその場に浮いているだけで、特に悪さなどをするわけではないのですが、その気味の悪さから友人は実家へ帰省することがそう多くはありませんでした。
初めて見た、首の……
ある日、珍しく友人が実家へ帰省したときのことでした。
実家の自分の部屋は、すっかり物置に変わっていたのです。
これじゃあ今晩どこで寝ればいいのだと問い詰めると、和室で寝ればいいじゃない、と母。
友人は断固拒否しましたが、なんでそんなに嫌がるんだと聞かれると何も言えず、仕方なくその夜は和室で過ごすことに。
相変わらず首は無表情でその場に浮いていました。
極力気にしないよう努めながら、眠りかけていたそのとき……。
「あぁぁ……!あぁぁ……!」
消え入りそうな声に驚き、顔を上げました。
するとそこには、目を見開き、舌を突き出し、苦悶の表情を浮かべた首がいたそうです。
友人は叫び出したい気持ちを必死に抑え、和室を飛び出してリビングへと駆け込みました。
それは、初めて見る首の苦しそうな表情でした。
友人はしばらくリビングで時間を過ごしましたが、恐る恐る和室へ戻ってみると、なんと首の姿がなくなっていたそうです。
それ以降、そこに首が現れることはありませんでした。
首が最後に見せた表情の意味はわかりませんが、友人になにかを伝えたかったのでしょうか。
首の悲痛に歪んだ表情が、今でも忘れられないといいます。
※記事に使用している画像はイメージです
※この物語はフィクションです
※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。