田舎の古民家
私は建築家として、さまざまな建物のリノベーションを手がけてきました。
しかし、今回の仕事ほど不気味な体験をしたことはありません。
それは、私の故郷の田舎町にある古民家をリノベーションする計画でした。
町の活性化のため、この廃屋をカフェに生まれ変わらせるという内容です。
現場に到着した日、私は早速家の中を調査しました。
朽ちかけた階段、剥がれ落ちた壁紙、埃まみれの家具。どれも手間のかかる仕事になりそうです。
間取りの確認をするため、私は2階への階段を上りました。軋む床を踏みしめる音が、静寂を破ります。
2階の廊下を歩いていると、突然、頭上から物音が聞こえました。まるで誰かが歩いているような音です。
しかし、この家に私以外の人間がいるはずがありません。
古民家の秘密
私は音の正体を確かめるため、屋根裏に続く梯子に登りました。
そこには薄暗い屋根裏部屋が広がっていました。
懐中電灯で周囲を照らすと、古びた箪笥や使い古された玩具が目に入ります。
異常がないことを確認し、安堵のため息をつきかけた時、再び足音が。
今度ははっきりと、私の背後から聞こえてきました。
振り返る勇気が出ないまま、私は固まってしまいます。すると、肩に冷たいものが触れました。
「うわっ……!」
思わず声を上げ振り返ると、そこには誰もいません。
代わりに、目の前で一枚の古い写真が舞い落ちていきます。
拾い上げてみると、昔この家に住んでいたであろう家族の写真が写っていました。
不吉な予感が背筋を走ります。そのとき、屋根裏のあちこちから、同時に足音が聞こえ始めました。
まるで、目に見えない何者かに取り囲まれたかのように。
パニックになった私は、急いで梯子を下り、そのまま玄関まで走って家の外へ飛び出しました。
荒い息をしながら振り返ると、2階の窓に人影が見えます。
それも一つじゃない。複数の影が、じっと私を見下ろしているのです。
その日以来、私はこの家のリノベーション計画から手を引きました。
しかし、あの日見た光景と、今も時折聞こえてくる足音の記憶は、私の中からなかなか消えません。
※この物語はフィクションです。
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