深夜の病院で
私がその病院に入院したのは、じっとりと暑い夏の日のことでした。
仕事中の怪我によって病院を訪れた私は、そのまま入院をすることに。
「大した怪我ではない」と仕事に戻ろうとしましたが、上司の勧めもあり、この入院を利用して束の間の休暇を満喫することにしました。
入院し始めて最初の夜のことです。
“コン、コン”
慣れない環境になかなか寝付けずにいた私は、病室を出てトイレに来ていました。
すると、個室の外からドアをノックされたのです。
「……?入ってまーす」
不思議に思いましたが、返答をするとそれ以上ノック音が鳴ることはありませんでした。
ついてくるノック音
トイレを済ませた私は病室へと戻り、カーテンを開けて夜空を眺めていました。
夜空を眺めながら「あぁ、少し眠くなってきた」と、ぼーっと考えていると、
“コン、コン”
再び、ノック音が。
「こんな夜中に、誰が?何の用で?」さすがに気味の悪さを感じました。
身体を強張らせ、暫くの間じっと黙っていました。
しかし……
“コン、コン”
また、ドアを叩く音が。
恐怖心はありましたが、まんまと怖がっている様子を見られるのも癪にさわった私は、無視を決め込むことにしました。
「タチの悪いことをする人がいるもんだ」と考えていると、気持ちはだんだんと苛立ちに変わっていき、恐怖心は薄れていきます。
ベッドへ戻った私は布団を抱き込むと、勢いよく仰向けに倒れ込みました。
布団の中で「明日起きたら、イタズラを注意してもらうよう病院側に報告しよう」なんて悠長に考えていました。すると……。
「うわああああああ!」
ベッドへと寝転ぶと、先ほど見ていた窓が視界に入ります。
窓のその向こうには、いるはずのない薄ら笑いの老婆が、肩から上だけを覗かせてこちらを見つめていました。
なんとその病室は、ベランダのない3階なのです。
翌朝、私は逃げるようにして病院を後にすることに。
あの時、じっとりとこちらを見て、笑っていた老婆。
いつから見ていたのか、トイレからついてきていたのか、今となっては知る術はありません。
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