隣に住む男女
ある夏の日のこと。
扇風機しかない私のアパートは、7月にもなるとうだるような暑さでした。
部屋は2階のため、夏場は窓を開けて過ごすことが常だったのです。
その日も僅かな涼を感じようと、窓を開けて外を眺めていました。
すると、外の駐車スペースに停まる車に隣人カップルが乗りこむ様子を目にします。
よく車で出かける姿を見かけるため、仲が良いのでしょう。
恋人のいない私は「いいなぁ、いつも一緒で」と羨ましく二人を眺めていたのです。
隣人カップルは大人しい二人組。
カップルがこのアパートへ越してきたとき、引っ越しの挨拶に来てくれました。
その場で少し立ち話をしましたが、どちらも静かで大人しそうな人柄で、特に女性はずっとつまらなそうに男性の後ろに立つだけ。
私が気を使って女性に話しかけても不愛想で、男性はそれを注意することもなく早々に帰っていきました。
以来ほとんど関わりはありませんでしたが、こうやって窓から姿を見かけては、なんとなくぼんやりと二人を見ることが多くありました。
運転席に座っていた女性
翌日も窓を開けて外を眺めていると、隣人カップルの車が目に止まりました。
「あれ?いつも助手席なのに女性が運転するのか」
普段は男性が運転をしているようでしたが、今日はすでに女性が運転席に座っていたのです。
少し不思議に思いながらも車を眺めていると、男性が部屋から出てきました。
そして車へ向かうと、運転席側へ回り込みます。
「あ、いつもの癖で運転席に行こうとしてる」と思いつつ眺めていると、男性は運転席側のドアを開け、いつも通りにその身を運転席へと沈めたのです。
「えっ……!?」
先ほどまで運転席に座っていた女性は、男性と重なるようにして、すぅっと消えていきました。
隣の住人はなんと……
翌日、なんと男性は交通事故に遭い、意識不明の状態で病院へと運ばれたというのです。
運転席に座っていた女性が消える瞬間、その顔は薄っすらと笑っているようでした。
それは私が見た、最初で最後の女性の笑顔でした。
隣人は、最初から男性の一人暮らしだったのです。
あの女性は一体誰だったのか、今でも思い出すとゾクっとします。
※この物語はフィクションです。
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